豊胸手術後の血腫は稀な合併症であり、適切なタイミングで対処すれば何の問題もなく回復します。重要なのは、発生頻度を下げる手術手技と、万が一血腫が生じた際にすぐにつながる緊急連絡体制です。この2つが整っていれば、血腫は恐れるものではなく、適切に管理できる対象となります。



血腫はどれくらいの頻度で起こるのか

血腫とは、手術部位の内部に血液が溜まる状態を指します。豊胸術後の発生率は、文献により0.5〜3%(Iwuagwu & Frame, 1997)、約1%(Hsiaoら, 2002)と報告されています。100人のうち1〜2人程度です。稀ではありますが、どのクリニックでも起こりうる頻度であるため、これを前提として備えておく必要があります。大部分は術後3日以内、特に手術当日の夜から翌日の明け方にかけて発生する傾向があります。発生しやすい時期が定まっているということは、前もって対策が立てられるということです。


なぜ事前に知っておくべきなのか

血腫ができると、溜まった血液がインプラント周囲に炎症を引き起こし、被膜が厚くなる被膜拘縮(カプセル拘縮)へとつながる可能性があります。Handelらによる752名の前向き研究では、血腫を経験した患者様の被膜拘縮発生率は29%であり、経験しなかった患者様の13%に比べて高い数値を示しました。Codnerらの研究でも25%対8%という結果が出ています。出血量が多い場合は全身状態にも影響を及ぼす可能性があるため、迅速な処置が不可欠です。

これらの数字が示しているのはただ一つです。血腫が発生した後にどれだけ早く処置できるかが、結果を左右するということです。溜まった血液を速やかに除去して止血すれば、組織の損傷や炎症を最小限に抑えられ、被膜に残る影響も軽減されます。発生から数時間以内に処置された血腫は、ほとんどの場合その後の経過に悪影響を残しません。


患者様にご確認いただきたい症状

片側の胸だけが急激に腫れて硬くなる。鎮痛剤を服用しても痛みが治まらず、次第に強くなる。内出血(アザ)が急速に広がる。めまいや冷や汗が出る。これらの中で一つでも当てはまる症状がある場合は、すぐにご連絡ください。症状は明確に現れるため、見逃す心配はほとんどありません。



だからこそ、私の個人番号をお渡ししています

血腫が最も発生しやすいのは、クリニックの診療時間外です。私は手術を受けられた患者様に対し、手術直後に私自身の個人の電話番号をお渡しし、異常を感じられた際は時間帯を問わずお電話いただくようお伝えしています。執刀医が直接症状をお伺いすることで、迅速な判断が可能となります。血腫が疑われる場合はすぐに来院していただき、必要に応じてその場で処置を決定いたします。

患者様にとっても、「何かあったらすぐにつながる」という安心感そのものが、ダウンタイム中の心強い支えとなります。多くの場合、この番号を使うことはありません。時に、些細な疑問や本当に主治医につながるのかを確認するためにご連絡くださる方もいらっしゃいますが、どうぞお気軽にご連絡ください。ただし、診療時間外となりますので、カカオトーク等のメッセージの場合は返信にお時間をいただく場合がございます。


血腫のリスクを減らす手術手技

血腫の大部分は、インプラントを挿入するスペースを剥離する過程で傷ついた血管から発生します。そのため、剥離の方法が血腫の発生と直結しています。視野を確保し、目視で確認しながら剥離を行えば、血管を傷つける前に発見してあらかじめ止血することができます。指や器具で組織を押し広げて剥がす鈍的剥離(blunt dissection)や、近年行われることのあるバルーンを膨らませてスペースを作る方法は、剥離面を目で見ずに進めるため、血管が破れてもその場で止血することができません。直視下で行わない剥離法のほうが血腫の頻度が高かったことは、文献でも確認されています。

私は、手術部位を直接目で確認しながら剥離と止血を行う方法を採用しています。時間はより多くかかります。それでも、血腫を予防する最も確実な方法は出血点をそもそも作らないことであり、そのためには術者が直接目視で確認しなければなりません。迅速で簡便な手法が知られていたとしても、私は直視下で確認しながら行う手術をお勧めします。


手術前に確認すべきこと

カウンセリングでは、3つの点をご確認ください。血腫の発生率を具体的な数字で説明してくれるか。術後の夜間や休日に異常があった際、誰にどのように連絡するかが定まっているか。剥離をどのような手法で行うのかを説明してくれるか。胸の手術を専門とする形成外科専門医であれば、当然これらの質問に対する明確な答えを用意しているはずです。

血腫は稀なものであり、備えがあれば適切に対処できます。手術手技によってリスクを最小限に抑え、万が一発生した際にもすぐにつながる体制があること。この2点がしっかりと揃っているかを確認した上で、手術をご決断ください。